身体美学講座男の肖像

本田宗一郎 2015年2月20日

ホンダを一代で世界的企業に育てあげた起業家。
戦後生まれの企業の成功物語としては最大級。
同じく戦後生まれのソニーと双璧をなす。

全盛期の肖像

ソニーの場合、カリスマ的リーダーが二人存在した。
ホンダも優秀なパートナーが脇を固めていた。
しかしカリスマはあくまで宗一郎一人。
戦後を代表する企業家だと言える。

彼はたたき上げの技術者。
松下幸之助と同じで高学歴ではない。
頑固一徹の職人的な気質だった。

社長になっても作業着で現場に立つのが常。
頑固なだけでなく、言動も荒っぽかった。
腕白な少年がそのまま大人になったかのように。

全盛期の肖像

部下に対して罵声はもとより、しばしば手も出た。
お世辞にも紳士的とは言えない。
当然恐れられる存在だった。

されど憎まれることは少なかった。
怖いけど憎めない存在。
親しみを込めて親父と呼ばれていた。

暴力的でも慕われる。彼の真骨頂かも知れない。
その点は荒法師と言われた土光敏夫氏と似ている。
(ただし土光氏は非暴力だった。)
土光氏も特筆すべき起業家、財界人だ。

あるいはアップルに復帰後のスティーブ・ジョブズにも。
ジョブズも社員にとっては怖くて近よりがたい存在。
事実独裁者のオーラを放っていた。
にも拘わらずカリスマ的リーダーとして敬愛されていた。

瀕死のアップルを屈指のブランドに復活させた神通力。
その威光は絶大だった。
カリスマ性は社員を超えて、ユーザーにまで浸透した。
ユーザーに夢を与え続けたからだ。
死亡時は世界中のユーザーが死を悼んだ。

ホンダは人々に夢を与えた。
優れた製品を生み出すと同時に、レースでも活躍。
2輪でも4輪でも世界の最高峰に立った。

アイルトン・セナの伝説もホンダと一体だ。
彼はF1で3度ワールドチャンピオンに輝く。
3度ともエンジンはホンダだった。
セナ伝説=ホンダのレース史の頂点。

セナは宗一郎に直接祝福されたことがある。
満面の笑顔で「いいエンジン作るよ」と。
セナは感激のあまり、感涙にむせんでいた。
親父の慈愛、カリスマ性のなせるわざであろう。

彼は名言も多く残している。
叩き上げだけに、実体験から学んだ教訓に満ちている。
彼自身は名言通り生きたから成功した。
と思われがちだが、現実は違う。

長所と短所、強みと弱みは表裏一体で紙一重。
頑固さは一歩間違えばただの独善。
常に自分を客観視する余裕がないと、暴走しやすい。
彼もまたその罠から逃れきれなかった。
破滅目前まで暴走したこともある。

それでも土壇場で危機を回避する。
そうして多くの困難を克服してきたから今がある。
そのとき彼を、ホンダを支えたのは優秀な社員たち。
彼らなくしてホンダはありえない。
彼らをまとめたのが宗一郎のカリスマ性であろう。